ストレスに溺れる前に出来ること
ストレスとは?
『ストレス』を簡潔に定義するならば、「何らかの刺激によって、心身に歪みを生じた状態」といえるでしょう。刺激が弱ければ、一時的にストレスを感じても、歪みは元に戻りますが、刺激が強いと歪みを戻すのは困難になります。
また、特に注意したいのは、『ストレス』は心と体の両方に影響を与えると言うことです。代表的な『ストレス』による心と身体への影響は下記の様な物があります。
【心への影響】
○ 注意力が低下し、考えがまとまらない
○ 物忘れが酷くなる
○ 判断が雑になり、間違いが多くなる
○ 幻覚や思考障害が出てくる
○ 不安が強くなり、他者への攻撃性が高まる
○ 抑鬱感、絶望感が出てくる 等々
【身体への影響】
○ 胃潰瘍
○ 虚血性心疾患
○ 本態性高血圧
○ メニエール病
○ 突発性難聴
○ 心因性の発声障害
○ アトピー性皮膚炎
○ 円形脱毛症
○ 頭痛、慢性疲労、過呼吸 等々
ストレスを感じやすい人
ストレスを生じるような刺激となる物事(ストレッサー)が同じでも、それに対するストレスの度合いの受け取り方は人によって異なります。その為、ある人がまったくストレスを受け取らないようなストレッサーであっても、別の人は非常に強いストレスを感じるというような事態が生じてきます。
その為、人によるストレッサーへの評価方法の違いを把握しておくことは重要だと言えますが、この様なストレッサーの受け取り方の違いを考えていくと、ストレッサーへの評価方法は下記の様な二通りがあることに気づきます。
[評価1 ストレッサーの有害度]
同じ刺激を受けても、そのストレッサーをどの程度、脅威と感じるかは人によって様々です。例えば上司に嫌味を言われても「ハゲチョビンがなんか言ってらあ」という程度の有害性しか感じない人もいれば、逆に「もうこんな会社には居られない」と思いつめるほど有害性を感じる人もいます。
[評価2 ストレッサーの対処可能性]
もし脅威を受けるようなストレッサーがあっても、「自分の力でどうにかなるだろう」と考えられれば、それ程大きなストレスにはなりませんが、「もう、どうにもならない」と感じてしまえば、大きなストレスを感じます。
つまり、ストレスを受けやすい人というのは、上記の二つの評価においてストレッサーに対処したとき、その有害度をより大きく感じ、うまく対処できないと考えてしまう人という事になります。
認知のゆがみ
ストレッサーの有害度をどの程度つよく感じるかに関連してくるのが『認知のゆがみ』の程度です。『認知のゆがみ』とは、思考が非合理的、非論理的になっている状態を『ゆがみ』として捉えるものです。代表的な『認知のゆがみ』の例は以下の様な物があります。
[過度の一般化]
わずかな事実を取り上げて、それが一般的な法則であるかのように勝手に結論付ける。
例 : あいつは2回失敗した(事実) ⇒ あいつは何をやっても必ずミスをする(ゆがみ)
[白黒思考]
物事が曖昧である事に我慢できず、常に明確に白黒つけたがる。
例 : ある人間に騙された(事実) ⇒ 人間は全て信用できない(ゆがみ)
[自己関連付け]
悪いことが起きたとき、実際には関係が無くても自分がいけないんだと責める。
例 : 「同僚が会社を辞めたのは全て私のせいだ」
[過大評価・過小評価]
大げさに考えたり、必要以上に低く評価したりする
例 : 何人かが言っている(事実) ⇒ 全員が言っている(ゆがみ)
[決め付け思考]
自分や他人を「こうあらねばならない」「こうすべきだ」と決め付けてしまう。
例 : これまで毎年こうやっている(事実) ⇒ かならずこうしなければならない(ゆがみ)
[破局視]
実際にはちょっとした失敗であっても、取り返しがつかないと考えてしまう。
例 : 希望の会社に入れなかった(事実) ⇒ 人生が破滅した(ゆがみ)
[可能性の限定]
やる前から根拠無く人や物事の可能性を限定してしまう。
例 : 「どの道、そんな事は不可能だ」
[勝手な読心]
相手が何か言ったわけでも無いのに、相手の気持ちを勝手に憶測する。
例 : 自分を見て笑った(事実) ⇒ 自分を馬鹿にしている(ゆがみ)
これまで悩みが絶えないという人にはいくつか思い当たる点もあるのではないでしょうか。
ストレスへの対処方法
ストレスへの対処方法は大きく分けて次の4つがあります。
[ストレッサーを除去、あるいは軽減する]
別項の『問題解決スキル』を活用するのが最も適切ですが、簡単に説明すると、「自力で克服する」「相手や対象に働きかける」「回避する」という3種類の対処方法を使ってストレッサーの除去・軽減を目指しましょう。
[ストレッサーに対する自己の評価方法を変える]
先に紹介した「認知のゆがみ」を訂正する為に「非合理的思考」を「合理的思考方法」に置き換える方法です。これには、まず自分がどういう「非合理的思考」を抱きやすいかを前もって知っておくことが効果的です。また、具体的な評価の変換方法として「セルフトーク」の活用があります。
[ストレスを感じた場合の自己の反応方法を工夫する]
上の二つのストレス対処方法と異なり、既に顕在化したストレスに対応する方法です。身体や心の緊張を緩める為の様々な方法があり「リラクセーション」の項目で紹介いたします。
[社会的支援を活用する]
ストレス対処の為に様々な周囲の資源を活用する方法です。代表的なものとしては、「人に相談する」という方法が挙げられるでしょう。
セルフトーク
「セルフトーク」はストレスを受けた状況での自分自身に対する心の中の口癖というべき物です。ストレス対処においての「セルフトーク」の活用は、この「心の中の口癖」=「言葉に投影された意識」を変容させることで、「認知のゆがみ」を修正して、合理的・論理的な思考へと変化させる事を目指します。
具体的な「セルフトーク」の修正方法としては次の3つの方法があります
[非合理性・非論理性を正す]
ストレスを過度に増大させるような「セルフトーク」には必ず「非論理性・非合理性」があります。例をあげるなら「昔、何人かに騙された」といっても「全ての」人間が貴方を騙すわけではありません。しかし、ストレスを過度に増大させるような「セルフトーク」には「何人か人=全ての人」という数式が成立してしまっているのです。こうした「非合理性・非論理性」を「合理的なもの・論理的なもの」に変えて行く事は、「セルフトーク」修正の大原則です。
例 : 「笑われて馬鹿にされた」 ⇒ 「笑らっていたけど、馬鹿にされたとは限らない」
[現在思考で考える]
過去にとらわれたり、未来のことをクヨクヨ考えすぎたりする事は、ストレスを生む大きな原因となります。過去を修正することは出来ませんし、未来のことを考えすぎるのは不安を増大させるだけだからです。
過去や未来にエネルギーを浪費するのではなく、現在出来ることに集中することが、ストレスを軽減することにつながるでしょう。
例 : 「どうせ意見を聞いてくれるわけが無い」 ⇒ 「意見を通すには何が必要か考えよう」
[ありのままを受容する]
本来はこうあるべきだという理想の状況や他人との比較で自分の現状を考えた場合、自分の状況がそれらに及ばないと感じると強いストレスが生じがちです。ストレス対処方法として大切なのは、ありのままの現状を受容し、その上で現状のプラス面に目を向けることです。
例 : 「また失敗した。自分だけがこんな目に合う」 ⇒ 「失敗する日もあれば成功する日もある」
リラクセーション
ストレッサーに出会うと、身体的にも心理的にも緊張を感じます。それを緩めるのが「リラクセーション」です。このストレス対処法は、ストレスが顕在化しそう、あるいは顕在化してしまった時に、第一選択として行うと良いでしょう。
[具体的なリラクセーションいろいろ]
深呼吸をする
全身の筋肉の緊張・弛緩を数回繰り返す
ストレッチをして緊張を和らげる
自律訓練法を行う
入浴する・温泉に行く
美味しい物を食べる
ぐっすり寝る
ペットと遊ぶ
散歩や運動、趣味で気分転換
感動する映画を見る(笑うか泣くか出来る物が良い) 等々
社会的支援
自分の力だけではストレッサーへの対処が難しいときには、他人の力を借りて対処する方法も選択できます。この社会的支援のストレス対処方法はストレッサーを排除・軽減する為にも使えますし、認知のゆがみを訂正する為の援助にも使えます。また、リラクセーションの一部としても活用できる優れた手法です。
[社会的支援の具体例]
ストレッサーの排除
「会社の同僚に嫌がらせを受けた」 ⇒ 「上司に相談し、注意してもらった」
認知のゆがみの訂正
「悩みが大きすぎて辛い」 ⇒ 「友人に相談したら、たいした問題じゃないと思えてきた」
リラクセーション
「仕事が行き詰まっている」 ⇒ 「肩をもんでもらったら、少し気分に余裕が出てきた」